2026年6月23日

推し活を販促目線で読み解く。好きが消費と行動に変わるしくみ

「推し活」って、最近よく聞きますよね。

でも、販促や商品企画、売場づくりの仕事として考えたときに、実際のところ推し活とは何なのか。
グッズが売れることなのか、イベントに人が集まることなのか、SNSで盛り上がることなのか。

わかっているようで、意外と整理しにくいテーマでもあります。

そこで本レポートでは、推し活を単なるブームや趣味消費としてではなく、生活者の中にある「好き」が、応援・参加・消費・共有へ広がっていく行動の循環として整理してみました。

1. 推し活って?

「推し活」という言葉、最近よく聞きますよね。

アイドルやアーティストを応援する。

好きなキャラクターのグッズを集める。

配信者やVTuberの配信を見る。

ライブやイベントに行く。

SNSで感想を投稿する。

推しカラーの商品を選ぶ。

部屋に飾る。

記念日を祝う。

こうした行動が、いま「推し活」と呼ばれています。

でも、推し活は単なる趣味や買い物ではありません。

そこには、コンテンツを生み出す人や企業がいて、作品や人物、キャラクター、音楽、配信、イベント、世界観があります。生活者はそれに触れ、気持ちを動かされます。そこから「好き」という感情が生まれ、見る、買う、参加する、投稿する、共有する、語る、会いに行くといった行動につながっていきます。

さらに、その行動はSNSやファンコミュニティで広がり、話題化や共感を生みます。そこから、グッズ、遠征、外食、収納、推し会、日常購買などの周辺需要にもつながっていきます。企業や小売、メーカー、イベント事業者は、その周辺に商品、売場、サービス、キャンペーン、体験を提供します。

つまり推し活は、ひとりの趣味だけで完結するものではありません。

コンテンツ、生活者、ファンコミュニティ、SNS、企業、小売、イベント、商品、サービスがつながりながら回っていく、ひとつのエコシステムです。

そして、その循環を動かしている骨になるものが「好き」です。

2. 推し活は、どう循環しているのか

推し活の循環は、次のように見るとわかりやすくなります。

  1. コンテンツ提供者が、作品・人物・キャラクター・音楽・配信・イベント・世界観を生み出す
  2. 生活者が、そのコンテンツに触れる
  3. 気持ちが動き、「好き」が生まれる
  4. その好きが、見る、買う、参加する、投稿する、共有する、語る、会いに行くといった行動になる
  5. 行動がSNSやファンコミュニティで共有され、共感や話題化が生まれる
  6. グッズ、遠征、外食、収納、推し会、日常購買など、生活の中の周辺需要へ広がる
  7. 企業・小売・メーカー・イベント事業者が、商品、売場、サービス、キャンペーン、体験を提供する
  8. 新しい接点や体験が、次の参加、次の応援、次のコンテンツへつながる

この循環があるからこそ、推し活は一度きりの消費ではなく、生活の中で続いていく行動になります。

推し活エコシステムの見取り図

要素 役割 生まれる価値
コンテンツ提供者 作品、人物、キャラクター、音楽、配信、イベント、世界観を生み出す ファンとの接点、収益、継続的な活動基盤
コンテンツ 推しの対象そのもの。世界観、楽曲、物語、キャラクター、活動 好きになる理由、参加する理由、語りたくなる理由
ファン・生活者 見る、買う、行く、応援する、共有する、記録する 癒やし、活力、自己表現、仲間とのつながり
SNS・コミュニティ 感想、共感、拡散、交流、推し会、鑑賞会を生む 参加感、所属感、継続する楽しさ
周辺企業・小売 商品、売場、サービス、場所、体験を提供する 推し活をしやすくする支援接点

ここで企業や小売が担える役割は、コンテンツそのものを代替することではありません。

むしろ、生活者がコンテンツと気持ちよくつながるための周辺環境を整えることです。

たとえば、イベント前の準備をしやすくする。買ったグッズを大切に保管できるようにする。推し会や鑑賞会を楽しみやすくする。日常の買い物の中で、少しだけ推しを感じられる接点をつくる。

こうした支援があることで、推し活は「一度買って終わり」ではなく、生活の中で続く行動になります。

3. 循環の骨にある「好き」は、どこから生まれるのか

推し活の循環を動かしている骨は、「好き」です。

好きだから見る。

好きだから買う。

好きだから会いに行く。

好きだから語る。

好きだから共有する。

好きだから飾る。

好きだから記録する。

好きだから、生活の中に取り込んでいく。

ただし、この「好き」は、単純な好意として片づけられるものではありません。

人は、何もないところから突然、特定の人物や作品、キャラクター、音楽、配信、世界観を好きになるわけではありません。

その人がこれまでに得てきた経験、知識、記憶、家庭環境、親の言動、友人関係、学校での体験、幼少期に見ていたテレビやアニメ、音楽、ゲーム、雑誌、インターネット、SNS、そしてその時代の空気が、ものの見方や感じ方の土台になっています。

何に安心するのか。

何を懐かしいと感じるのか。

何をかわいいと思うのか。

何をかっこいいと思うのか。

何に救われるのか。

何にときめくのか。

そうした「好き」の感じ方は、個人の内側だけで完結しているものではありません。過去の経験、周囲の環境、時代背景、メディア接触、そして日々触れている表現によって少しずつ形づくられています。

また、「好き」は過去の記憶だけから生まれるものでもありません。

新しい写真表現、映像表現、音楽、デザイン、SNS上の見せ方、AIやCGによる表現、食品や商品のビジュアル表現などが、人の知覚や期待値を更新することもあります。

それまで気づかなかった魅力が、ある表現によって急に見えるようになる。

別の領域で生まれた見せ方が、まったく違うコンテンツの魅力の感じ方に影響する。

そうしたことも、「好き」が生まれる背景にはあります。

つまり、推し活の骨にある「好き」は、一つの理由で説明できるものではありません。

幼少期の記憶。

安心した経験。

憧れ。

寂しさ。

親や家族との関係。

友人との会話。

その時代に流行していたもの。

メディアで繰り返し見たもの。

新しい表現に触れた驚き。

身体感覚としての心地よさ。

それらが重なり、その人の中に「何に惹かれるか」という認識の土台がつくられていきます。

そして、その土台に人物、キャラクター、作品、音楽、声、物語、世界観、ビジュアル、言葉、体験が触れたとき、感情が動きます。

なんか安心する。

懐かしい。

かわいい。

かっこいい。

見ていたい。

救われる。

応援したい。

この世界にいたい。

見届けたい。

その感情が「好き」になり、やがて推し活の行動へと広がっていきます。

4. 「好き」は、どう行動に変わるのか

「好き」は、心の中にあるだけでは終わりません。

好きな対象が自分にとって意味のある存在になると、生活者は何らかの形で関わりたくなります。

見る。

聴く。

読む。

買う。

飾る。

会いに行く。

投稿する。

共有する。

語る。

記録する。

応援する。

こうした行動が、推し活として表に現れます。

ここで大切なのは、同じ「好き」でも、行動の出方は人によって違うということです。

大きくお金を使う人もいれば、無料配信を見て応援する人もいます。現地へ行く人もいれば、SNSで感想を投稿する人もいます。グッズを集める人もいれば、推しカラーを日常の持ち物に取り入れる人もいます。

推し活は、ひとつの正解がある行動ではありません。

生活者は、自分の気持ち、生活環境、時間、収入、家族、仕事、距離、体力に合わせて、自分なりの関わり方を選んでいます。

つまり、「好き」が行動になるとき、そこには必ず生活者ごとの事情が反映されます。

5. でも、好きだけでは続けられない

推し活の中心にあるのは「好き」です。

しかし、好きだけで推し活を続けられるわけではありません。

現実には、お金、時間、体力、距離、仕事、家族、収納、情報量、抽選、限定品、混雑、買い逃し不安など、さまざまな制約があります。

本当は全部追いたい。

でも、全部は買えない。

本当は現地に行きたい。

でも、時間や距離や費用がある。

本当はグッズを集めたい。

でも、収納する場所がない。

本当はリアルタイムで見たい。

でも、仕事や家事や睡眠もある。

だから生活者は、自分なりに折り合いをつけながら推し活を続けています。

優先順位をつける。

今回は見送る。

配信で楽しむ。

近場で楽しむ。

グッズは厳選する。

収納方法を工夫する。

仲間と情報を共有する。

日常の中で小さく楽しむ。

推し活は、「好き」があるから始まります。

しかし、続けるためには、好きと現実の折り合いが必要です。

この視点がないと、推し活は「熱量が高い人の消費」として単純化されてしまいます。

実際には、多くの生活者が、自分の生活を壊さない範囲で、好きなものを大切にしながら続ける方法を探しています。

6. 好きが集まると、市場になる

推し活市場は、生活者の中に生まれた「好き」が行動に変わり、その行動が積み重なった結果として生まれています。

CDG・Oshicocoによる第2回推し活実態アンケートでは、15〜69歳の日本在住男女23,069人を対象にした調査で、推し活実施率は16.7%、推し活人口は1,384万人、年間平均支出は255,035円、市場規模は約3.5兆円とされています。

また、別の調査では、推しがいる人の割合を示す「推し保有率」が35.1%とされるなど、推し活をどう定義するかによって数値は変わります。さらに、推しがいる人、推し活をしている人、推しにお金を使う人では、意味が異なります。

そのため、推し活市場を語る際には、ひとつの数字だけで断定しないことが重要です。

市場規模を見るときは、次の点を確認する必要があります。

  • 調査対象者は誰か
  • 「推し活」をどのように定義しているか
  • どの支出を市場規模に含めているか
  • 「推しがいる人」と「推しにお金を使う人」を分けているか
  • 年間平均支出の対象が誰なのか

推し活は大きな市場です。しかし、より重要なのは、数字の大きさそのものではありません。

生活者の「好き」がどのような行動になり、どのような生活接点に広がっているかを見ることです。

市場を見るうえでの整理

指標 数値例 読み方
推し活実施率 16.7% 実際に推し活をしている人の割合
推し活人口 1,384万人 推し活をしている人の推計
年間平均支出 255,035円 推し活に使う年間支出の目安
推し活市場規模 約3.5兆円 推し活関連消費の推計
推し保有率 35.1% 推しがいる人の割合。支出者とは限らない

7. 好きの対象によって、行動と負担は変わる

推し活といっても、すべての人が同じ行動をしているわけではありません。

どんな対象を好きになるかによって、好きの表れ方は変わります。

アイドルやアーティストを応援する人、キャラクターグッズを集める人、VTuberや配信者を応援する人、スポーツチームを応援する人では、行動も支出も接点も異なります。

重要なのは、どのIPや作品が人気かだけを見ることではありません。

生活者がその対象に対して、どのような好きの表し方をしているのかを見ることです。

推し活対象別の行動整理

分類 主な対象 好きの表れ方 主な支出・行動 生まれやすい負担
リアル現場型 アイドル、音楽、スポーツなど 会いに行く、現地で応援する、成長を見届ける チケット、交通費、宿泊費、応援グッズ 移動負担、遠征費、持ち物準備
デジタル参加型 VTuber、配信者、ゲーム配信など リアルタイムで参加する、コメントする、見守る 課金、配信環境、デジタルグッズ 夜更かし、支出管理、参加疲れ
グッズ・世界観型 キャラクター、アニメ、ゲームIPなど 集める、飾る、持ち歩く、撮影する 公式グッズ、収納用品、保護用品 収納、保管、買い逃し、品切れ

たとえば、リアル現場型では、イベント前後の移動・宿泊・飲食・持ち物準備が重要になります。デジタル参加型では、視聴環境や課金管理、リアルタイム参加のしやすさが重要になります。グッズ・世界観型では、集める、飾る、持ち歩く、撮影する、保護するという行動が中心になります。

この違いを理解すると、企業の接点づくりも変わります。

「人気作品とコラボする」だけではなく、「その推しを応援している人が、どの場面で何に困っているか」を見ることが重要です。

8. 企業や小売は、好きの継続を支えられる

企業や小売が担えるのは、生活者の「好き」そのものを代わりにつくることではありません。

むしろ、好きだけでは続けにくい現実を少し楽にすることです。

イベント前の準備をしやすくする。

遠征を快適にする。

グッズを大切に保管できるようにする。

推し会や鑑賞会を楽しみやすくする。

日常の買い物の中で、小さく推しを感じられる接点をつくる。

買い逃しや混乱を減らす。

過度に焦らせない売り方をする。

こうした支援があることで、推し活は無理な消費ではなく、生活の中で続けられる楽しみになります。

企業・小売が支えられる接点

好きだけでは続けにくい現実 企業・小売が支えられること
お金がかかる 選びやすい価格帯、無理なく買える周辺商品
時間が足りない 事前準備セット、時短できる売場、まとめ買い提案
遠征が大変 持ち物準備、移動中の快適グッズ、宿泊・飲食導線
グッズが増える 収納、保護、整理、飾り方の提案
情報が多すぎる 用途別・場面別にわかりやすい売場設計
買い逃しが不安 予約、再販案内、数量・期間の明確化
抽選や限定で疲れる 過度に焦らせない設計、参加条件の透明化
家族や生活との両立 日常購買の中で小さく楽しめる提案

推し活関連の企画を考えるときは、「何とコラボするか」から入るよりも、「どの行動を支えるか」から考えたほうが、生活者に届きやすくなります。

優先度が高いと考えられるのは、次のような企画です。

企画方向 内容 優先理由
推し活遠征準備サポート イベント・遠征前の持ち物、暑さ寒さ対策、移動用品をまとめる 実用性が高く、幅広い層に届きやすい
グッズ収納・保護サポート アクスタ、カード、缶バッジ、うちわなどの収納・保護用品を提案 買った後の困りごとに直結する
推し会・鑑賞会サポート 食品、飲料、装飾、撮影小物、部屋づくりを提案 家庭内・近場需要と相性がよい
日常購買×小さな推し活 推しカラー、推しモチーフ、飾る・撮る・持ち歩く提案 日常の買い物に楽しさを加えられる

特に、遠征準備とグッズ収納・保護は、公式IPコラボがなくても成立しやすい企画です。生活者の実用的な困りごとを支えるため、販促としても提案しやすく、権利面のリスクも比較的抑えやすい領域です。

一方で、公式IPやキャラクター、タレント名、画像、ロゴを使う場合は、権利確認が不可欠です。無断使用は避ける必要があります。

また、限定特典や抽選施策を行う場合は、過度な買い煽りにならないよう配慮が必要です。購入条件、応募条件、数量、期間、広告表示などを明確にし、誤認を招かない設計にすることが重要です。

9. 好きに関わるからこそ、配慮が必要になる

推し活は、生活者の深い「好き」に関わる行動です。

そのため、企業や小売が関わる際には、通常の販促以上に慎重さが求められます。

注意すべき点は、大きく5つあります。

1. 推し活を浪費や依存と決めつけない

推し活には支出が伴いますが、本人にとっては癒やしや活力、自分らしさを支える意味があります。

「無駄遣い」「依存」「疲れるだけ」といった見方を前提にすると、生活者の気持ちを傷つける可能性があります。

2. 人気ランキング化しすぎない

どの作品やIPが人気かは重要な情報ですが、それだけを見ると、生活者の行動や困りごとが見えにくくなります。

推し活を販促に活かす場合は、人気の有無だけでなく、どのような行動が生まれているかを確認する必要があります。

3. 成果を断定しない

企業コラボやキャンペーンは話題化しやすい一方で、公開情報だけでは売上や利益への影響が確認できない場合もあります。

「成功した」「売上が伸びた」と断定するのではなく、来店動機、SNS拡散、購買接点、ブランド接触など、確認できる範囲で整理することが重要です。

4. 権利確認を徹底する

キャラクター、ロゴ、画像、楽曲、タレント名、作品名などを使う場合は、権利者の許諾が必要です。

販促物やSNS投稿、店頭POP、チラシ、Webページで使う場合も、使用範囲を確認する必要があります。

5. 買い煽りになりすぎない

限定品、先着、抽選、特典付き施策は、推し活と相性がよい一方で、生活者の不安や焦りを強める可能性もあります。

推し活施策では、熱量を高めるだけでなく、安心して参加できる設計が必要です。

10. まとめ:推し活は、好きと現実の折り合いで続いていく

推し活は、単なる趣味消費でも、単なるファン消費でもありません。

コンテンツと生活者の間に生まれた「好き」が、見る、買う、会いに行く、投稿する、共有する、飾る、記録する、語るといった行動に変わり、その行動がコミュニティや市場、企業接点へ広がっていく循環です。

ただし、好きだけで推し活を続けられるわけではありません。

お金、時間、体力、距離、収納、仕事、家庭、情報量、抽選、限定品、買い逃し不安などの現実があります。

だから生活者は、自分なりに優先順位をつけ、見送るものを決め、配信や近場や日常購買の中で楽しみ、収納や情報整理を工夫しながら、好きと現実の折り合いをつけています。

企業や小売が推し活に関わる意味は、生活者の好きそのものを消費に変えることではありません。

好きだけでは続けにくい現実を少し楽にし、無理なく、気持ちよく、長く楽しめる環境を支えることです。

推し活とは、好きが生活を動かす循環であり、同時に、その好きを続けるために生活者が現実と折り合いをつけていく行動です。

この視点で見ると、推し活は単なる市場ではなく、生活者の感情、行動、関係性、日常購買がつながったエコシステムとして捉えることができます。